一般社団法人 AIM医学研究所 The Institute for AIM Medicine

コラム

AIM活性化成分配合のペットフードについて

2022.03.30

マルカン社から、AIMを活性化する成分を配合したペットフードが発売されてほぼひと月が経ちました。このペットフードに関しましては、色々なご意見をSNS上で拝見しており、私自身が、研究者としての立場から少しご説明をするべきと判断致しまして、本文を書かせていただくに至りました。その前に、当該ペットフードが未だに品薄状態であることでご不便をおかけしている状況にまずお詫び申し上げます。可及的速やかに状況を改善するよう、マルカン社にお願いしております。

 

ペットフード開発の経緯

 それではまず、こうしたペットフードを出すに至った経緯についてご説明します。AIM薬(AIMたんぱく質を直接薬剤としたもの)の開発研究と並行して、体内のAIMを活性化する人間用のサプリメントを開発する目的で、AIMを活性化する、すなわちIgMから解離させる天然物を長い期間探索してきました。そうした中で、ドリアンの果肉に含まれる成分がAIMを活性化させる効果があることが分かり、その知見に基づいてさらに研究を進め、必須アミノ酸であるシステインが2個結合した形のL-シスチンを最終的な候補物質として同定しました。L-シスチンは、すでに複数のサプリメントや食品添加物として使われており、その安全性については保証されています。L-シスチンを主要成分として人間用のサプリメントを開発するために、臨床試験を開始する予定です。

 猫ではAIMがIgMにとても強固に結合しているため、急性腎障害など腎疾患が発症してもIgMから解離しない、すなわち活性化しないため、死んだ細胞やそれが放出する炎症を惹起する物質(DAMPsなど)の腎臓での除去が効率よく進まないことが、ほとんどすべての猫が腎臓病を患い、多くが腎不全で死亡する重要な原因であることは、これまで学術論文を始め多くの媒体で述べてきました。しかし、L-シスチンを猫の血液に加えると、猫AIMであってもある程度IgMから解離し活性化することを昨年1月に見出しました。L-シスチンは、AIMとIgMの結合を担っている2か所のうち、ジスルフィド結合という強固な方の結合を化学的に切る作用があるため、他の動物に比べ解離しにくいネコAIMであっても、ヒトAIMやマウスAIMよりは効率が低いとはいえ、IgMから外すことが可能であると考えられます。

 腎臓に蓄積したゴミがまだ少量で、腎臓の損傷がまだない、もしくは軽度なうちに、ネコがL-シスチンを定期的に摂取し、少量ではあってもコンスタントにAIMを活性化させることで、腎臓病の予防や病態の悪化を抑制する可能があります。そのような考えから、ペットフード製造会社に、L-シスチンを配合したフードを作って欲しいと依頼しましたところ、迅速に開発を進めていただき、まず今年3月にマルカン社からペットフードが発売されるに至った次第です。

 

マルカン社ペットフードは一般食です。既に腎臓療法食をご利用の皆さまは、獣医師等にご相談の上、適切なご使用をお願いいたします。

 今回のペットフードは、敢えて一般食にしてほしいと、私からマルカン社にお願い致しました。それは、腎臓病治療のためのAIM薬の開発には時間がかかり、多くの愛猫家の方々を長い間お待たせしてしまっているため、AIM薬のような治療効果を望むことは難しいとはいえ、上記のように予防や軽症の腎臓病には効果が期待できると考えられるL-シスチンを配合したペットフードを、どこででも買える安価な商品として、できる限り速やかに愛猫家に届けられるようにしたかったことが最大の理由です。腎臓病はネコでも人間でも非常にゆっくり進行しますので、L-シスチンの予防効果や軽度の腎臓病の抑制効果を臨床試験で確かめるのには数年間かかってしまうことが予想されます。もちろん、臨床試験を経ての療法食としての開発も並行して進めていますが、私たちの手によるきちんとした科学的なエビデンスに基づいて開発したものですから、まずは一般食として、自信をもって製品化した次第です。

 一部のユーザーの方が、すでに愛猫にお使いの療法食とどのように組み合わせて使えばよいのか困惑されていることを、SNSで拝見しました。これにつきましては、かかりつけの獣医の先生やマルカン社にご相談していただき、適切なご使用をしていただければと思います。どうか、獣医の先生に相談することなく、お使いの療法食を止めてこのペットフードに切り替えることはお控えください。また私たちとしても、療法食としての開発を進める一方で、既存の療法食と併用できる、サプリメントのようなペット用食品を作れないか工夫しております。

 

体内に活性化AIMが増えることによる副作用の可能性について

 AIMの基本的な機能は、生体由来の様々なゴミを除去することで、その効果により多くの病気で予防・治療効果が確認されており、これまで私たちや私たち以外の研究グループから多くの学術論文として発表されています。しかし、AIMを活性化させたりAIMを加えたりすることが、動脈硬化や糖尿病を悪化させてしまうことを懸念したご意見をSNS上で拝見しました。たしかに動脈硬化に関しましては、血中の悪玉コレステロール値が非常に高値になるように遺伝子改変したマウスに、高コレステロール食を長期間摂取させて動脈硬化を発症させるモデルで、AIMを欠損させると動脈硬化が改善するという論文を2005年に発表しました。血中のLDLコレステロールが増えると、動脈壁内で酸化したコレステロールを取り込んだマクロファージが泡沫化(顕微鏡下で泡のように見える)して壁内に蓄積し、血管壁を肥厚させて動脈硬化を発症しますが、私たちは、血管壁内で泡沫化したマクロファージ自身が産生したAIMが、自分や周囲のマクロファージを死ににくくし(AIMの名前の由来である、アポプトーシス(=細胞死)インヒビターとしてのAIMの効果です)、その結果、動脈壁内でのマクロファージの蓄積を助長し、血管壁が厚くなるというメカニズムを見出しました。したがってAIMが欠損したマウスでは、血管壁内のマクロファージが死にやすいため大量に蓄積せず、その結果血管壁の肥厚が軽減しました。しかしながらこの現象は、あくまで遺伝子欠損による人工的な動脈硬化モデルマウスで、AIMがないと動脈壁の肥厚が軽減することを見たにすぎず、AIMを投与して動脈硬化が悪化したり、ましてや正常なマウスにAIMを投与することで動脈硬化が発症することは認められておりません。実際、他の疾患で長期的にAIMを投与してその病気の治療を行っても、動脈硬化が発症した例は一例もありません。これは糖尿病についても同様で、糖尿病の原因である、肥満に伴う脂肪組織の炎症が、AIMを欠損したマウスでは軽減することを認めたものであり、通常の動物にAIMの長期投与を行うことで糖尿病が発症したことは一例もありません。したがって、マルカン社のペットフードを摂取したからと言って、動脈硬化や糖尿病になる、あるいは悪化するということはないと考えられます。また、活性化したAIM(IgMに結合していないAIM)は、速やかに腎臓を通過して尿中へ移行するため、増加した活性型AIMが体内に長時間滞留するということも考えられません。このような科学的根拠に加え、今後一層の研究を進めることで、AIMの効果とともに、副作用の可能性についても詳細に検討し、皆さまにペットフードやAIM薬を安心して利用していただけるよう努めていく所存です。

 以上、マルカン社のペットフードの発売に伴い、ユーザーの皆さんのご不安やご心配が少しでも払拭されることを祈念し、本文を閉じたいと思います。

2022年3月30日 宮崎 徹

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