一般社団法人 AIM医学研究所 The Institute for AIM Medicine

研究概要

AIMとは

IgM-Fc五量体のネガティブ染色の電子顕微鏡写真(文献2)

AIMはapoptosis inhibitor of macrophageの略語で、宮﨑が発見し1999年に論文発表した血中タンパク質です(文献1)。AIMは、抗体の一種である免疫グロブリンM(IgM)に結合した形で血液中に1 mLあたり約5μg(マイクログラム)存在しています。健康時にはほとんどのAIMはIgMに結合することで、不活性状態になっていますが、体の中に細胞の死骸や形が崩れたタンパク質、死んだ細胞から放出される炎症を惹起する分子、重合したタンパク質など、そのまま体内に放置されると様々な病気の原因になるような「ゴミ」がたまってきますと、AIMはIgMから離れ、こうしたゴミと結合します(文献2)。このゴミに結合したAIMが目印となって、マクロファージを始めとした、ものを食べる細胞(貪食細胞)が、AIMごとゴミを食べて掃除します。こうしてゴミは常に掃除されており、私たちの体は病気にならないように守られています(文献3)。ところが、生まれつき持っているAIMの量が少なかったり、AIMが働かなかったり、あるいは十分な量のAIMを持っていても、大量のゴミが出て自分のAIMでは処理できない場合などに、ゴミはうまく片付けられずに体の中に蓄積し、その結果色々な病気が発症し悪化していきます。すなわち、健康でいるか病気になるかは、体の中で出るゴミの量と、AIMと貪食細胞がそれを掃除する力とのせめぎあいで決まると言えます。したがって、足りない分のAIMを補充すれば、ゴミは十分に掃除されて、多くの病気の発症は防げるでしょうし、すでに病気になっていても、進行を止め治癒に向かわせることは可能なはずです。私たちは、このコンセプトに沿って、これまで腎臓病、脳梗塞、腹膜炎、肝臓がん、肥満や脂肪肝など様々な病気を、AIMによって予防・治療できることを証明し、多くの論文で発表してきました(文献4~14)。私たちIAMのメンバーは、AIMで体内のゴミを貪食細胞に掃除させる、というシンプルなメカニズムによって、腎臓病や脳梗塞のような今まで決定的な治療法のない多くの病気を治すという新しい疾患治療のパラダイムを確立させ、AIMを実際の治療薬として完成させるべく、日本医療研究開発機構(AMED)などの公的機関や企業、個人の方々のサポートの元、創薬研究開発を推進します。

ネコとAIM

他の動物に比べ、ネコ「では腎臓病の頻度が突出して高く、多くのネコが腎臓病で亡くなることはよく知られています。その原因は長く不明で、人間の腎臓病と同じくその確実な治療法もありません。私たちは、腎臓にゴミがたまってもネコのAIMはIgMから離れず掃除ができないため、腎臓にゴミが持続的に蓄積し慢性的な炎症が生ずることが、ネコの腎臓病の重要な原因であることを突き止め、2016年に論文発表しました(文献15)。すなわち、猫の腎臓病は先天的にAIMが働かないことによる一種の遺伝病であると言えます。AIMが働いていないから腎臓病になるのですから、当然AIMを補えば腎臓病は防げるはずです。そうした考えから、ネコ用AIM薬の開発を開始しました。早い時期からAIMを定期的に与えゴミを掃除しておけば、そもそも腎臓病の発症は抑えられるでしょうし、進んでしまった腎臓病でもAIMの投与により進行を抑え、長期的には腎機能の回復の可能性もあると考えられます。ネコ用AIM薬の一日も早い完成は、IAMの最重要のミッションの一つです。

AIMを活性化する
薬剤の開発

AIMそのものを投与して、足りない分を補充する方法の他に、体の中に元々あるAIMをより活性化させて、ゴミを掃除させる方法が考えられます。体の中には比較的たくさんのAIMがありますが、すべてがIgMから離れて活性化しているのではないため、薬剤でより多くのAIMをIgMから外し、もっとたくさんのゴミを掃除できるようにすることが目的です。AIMそのものを直接投与して大量のゴミを掃除する方法は、急性腎障害や脳梗塞などの、一気に病態が増悪するような急性疾患に対して適した治療法となりますが、体内の限られた量のAIMを活性化する方法では、1回に掃除できるゴミの量は限られます。したがって、じわじわと悪化する慢性疾患や、病気の予防に効果的と考えられます。汚れたトイレは、ゴシゴシ掃除すると一気に綺麗になりますが、少ない水でも定期的にちょろちょろ流しているとトイレがいつも汚れないのと同じことです。すなわち、AIMを直接投与するのがゴシゴシ掃除することで、AIMを活性化させるのがちょろちょろ定期的に水を流すこと、と考えると分かりやすいと思います。AIMを活性化する薬剤は、AIMそのものと違い、経口摂取できることが大きな利点です。AIMはタンパク質ですから口から摂ると胃腸で壊れてしまいますので注射するしかありません。また、AIMを活性化するには、いわゆる薬でなくても、天然素材のものをサプリメントとして使うことも可能です。実際私たちは、AIMを活性化する天然成分を見出し、現在それを人間用のサプリメントとして開発を進めています。また、この成分は猫のAIMもある程度活性化することがわかり、腎臓病の予防・改善効果を期待して、これを配合したキャットフードも開発しました。IAMではこうしたAIMを活性化する薬剤およびサプリメントを開発し、多くの慢性疾患の治療・予防法として実用化していきます。

血中AIMによる
診断技術の開発

体の中にゴミがたまり始めると、AIMがIgMから外れて活性化し、そのゴミの掃除に取りかかることは先に述べたとおりです。ゴミがすぐ掃除されてしまえば、活性化したAIMはそれ以上必要なくなりIgMから外れなくなります。しかし、ゴミ掃除がうまくいかないと、体は何とかそのゴミを掃除しようとしますから、AIMはずっと活性化され続けます。そのような状況では、血液中にIgMから離れたAIM(フリーAIM)が普段より多く存在しています。逆に言いますと、血液中のフリーAIMが高い状態は、体の中でうまくゴミが掃除されず病気が始まっていることを示唆します。この原理を応用して、血中のフリーAIMの値を測定し、色々な病気を早期から発見できる診断法を開発しています。すでにいくつかの疾患では、既存の診断法より鋭敏に早期診断が可能であることが分かってきています(文献16, 17)。

文献

  1. Miyazaki T, Hirokami Y, Matsuhashi N, Takatsuka H, Naito M. Increased susceptibility of thymocytes to apoptosis in mice lacking AIM, a novel murine macrophage-derived soluble factor belonging to the scavenger receptor cysteine-rich domain superfamily. J Exp Med. 1999, 189, 413-422.
  2. Hiramoto E, Tsutsumi A, Suzuki R, Matsuoka S, Arai S, Kikkawa M, Miyazaki T. The IgM pentamer is an asymmetric pentagon with an open groove that binds the AIM protein. Sci Adv. 2018, 4, eaau1199.
  3. Arai S, Miyazaki T. A scavenging system against internal pathogens promoted by the circulating protein apoptosis inhibitor of macrophage (AIM). Semin Immunopathol. 2018, 40, 567-575.
  4. Arai S, Kitada K, Yamazaki T, Takai R, Zhang X, Tsugawa Y, Sugisawa R, Matsumoto A, Mori M, Yoshihara Y, Doi K, Maehara N, Kusunoki S, Takahata A, Noiri E, Suzuki Y, Yahagi N, Nishiyama A, Gunaratnam L, Takano T, Miyazaki T. Apoptosis inhibitor of macrophage protein enhances intraluminal debris clearance and ameliorates acute kidney injury in mice. Nat Med. 2016, 22, 183-193.
  5. Maehara N, Taniguchi K, Okuno A, Ando H, Hirota A, Li Z, Wang C-T, Arai S, Miyazaki T. AIM/CD5L attenuates DAMPs in the injured brain and thereby ameliorates ischemic stroke. Cell Rep. 2021, 36, 109693.
  6. Kurokawa J, Arai S, Nakashima K, Nagano H, Nishijima A, Miyata K, Ose R, Mori M, Kubota N, Kadowaki T, Oike Y, Koga H, Febbraio M, Iwanaga T, Miyazaki T. Macrophage-derived AIM is endocytosed into adipocytes and decreases lipid droplets via inhibition of fatty acid synthase activity. Cell Metab. 2010, 11, 479-492.
  7. Maehara N, Arai S, Mori M, Iwamura Y, Kurokawa J, Kai T, Kusunoki S, Taniguchi K, Ikeda K, Ohara O, Yamamura K, Miyazaki T. Circulating AIM prevents hepatocellular carcinoma through complement activation. Cell Rep. 2014, 9, 61-74.
  8. Hamada M, Nakamura M, Tran MT, Moriguchi T, Hong C, Ohsumi T, Dinh TT, Kusakabe M, Hattori M, Katsumata T, Arai S, Nakashima K, Kudo T, Kuroda E, Wu CH, Kao PH, Sakai M, Shimano H, Miyazaki T, Tontonoz P, Takahashi S. MafB promotes atherosclerosis by inhibiting foam-cell apoptosis. Nat Commun. 2014, 5, 3147.
  9. Wang C, Yosef N, Gaublomme J, Wu C, Lee Y, Clish CB, Kaminski J, Xiao S, Meyer Zu Horste G, Pawlak M, Kishi Y, Joller N, Karwacz K, Zhu C, Ordovas-Montanes M, Madi A, Wortman I, Miyazaki T, Sobel RA, Park H, Regev A, Kuchroo VK. CD5L/AIM Regulates Lipid Biosynthesis and Restrains Th17 Cell Pathogenicity. Cell. 2015, 163, 1413-1427.
  10. Arai S, Maehara N, Iwamura Y, Honda S, Nakashima K, Kai T, Ogishi M, Morita K, Kurokawa J, Mori M, Motoi Y, Miyake K, Matsuhashi N, Yamamura K, Ohara O, Shibuya A, Wakeland EK, Li QZ, Miyazaki T. Obesity-associated autoantibody production requires AIM to retain IgM immune complex on follicular dendritic cells. Cell Rep. 2013, 3, 1187-1198.
  11. Tomita T, Arai S, Kitada K, Mizuno M, Suzuki Y, Sakata F, Nakano D, Hiramoto E, Takei Y, Maruyama S, Nishiyama A, Matsuo S, Miyazaki T, Ito Y. Apoptosis inhibitor of macrophage ameliorates fungus-induced peritoneal injury model in mice. Sci Rep. 2017, 7, 6450.
  12. A-Gonzalez N, Guillen JA, Gallardo G, Diaz M, de la Rosa JV, Hernandez IH, Casanova-Acebes M, Lopez F, Tabraue C, Beceiro S, Hong C, Lara PC, Andujar M, Arai S, Miyazaki T, Li S, Corbi AL, Tontonoz P, Hidalgo A, Castrillo A. The Nuclear receptor LXRα controls the functional specialization of splenic macrophages. Nat Immunol. 2013, 14, 831-839.
  13. Kurokawa J, Nagano H, Ohara O, Kubota N, Kadowaki T, Arai S, Miyazaki T. Apoptosis inhibitor of macrophage (AIM) is required for obesity-associated recruitment of inflammatory macrophages into adipose tissue. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011, 108, 12072-12077.
  14. Arai S, Shelton JM, Chen M, Bradley MN, Castrillo A, Bookout AL, Mak PA, Edwards PA, Mangelsdorf DJ, Tontonoz P, Miyazaki T. A role for the apoptosis inhibitory factor AIM/Spalpha/Api6 in atherosclerosis development. Cell Metab. 2005, 1, 201-213.
  15. Sugisawa R, Hiramoto E, Matsuoka S, Iwai S, Takai R, Yamazaki T, Mori N, Okada Y, Takeda N, Yamamura K-I, Arai T, Arai S, Miyazaki T. Impact of feline AIM on the susceptibility of cats to renal disease. Sci Rep. 2016, 6, 35251.
  16. Koyama N, Yamazaki T, Kanetsuki Y, Hirota J, Asai T, Mitsumoto Y, Mizuno M, Shima T, Kanbara Y, Arai S, Miyazaki T, Okanoue T. Activation of apoptosis inhibitor of macrophage is a sensitive diagnostic marker for NASH-associated hepatocellular carcinoma. J Gastroenterol. 2018, 53, 770-779.
  17. Shimizu T, Sawada T, Asai T, Kanetsuki Y, Hirota J, Moriguchi M, Nakajima T, Miyazaki T, Okanoue T. Hepatocellular carcinoma diagnosis using a novel electrochemiluminescence immunoassay targeting serum IgM-free AIM. Clin J Gastroenterol. 2022, 15, 41-51.
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主な研究対象

  • ネコ医薬

  • ヒト医薬

  • AIM
    活性化医療

  • AIMによる
    診断技術

  • AIMに関連する
    基礎研究